東京高等裁判所 平成6年(ネ)3182号 判決 1997年7月31日
控訴人(反訴原告)
花王化粧品販売株式会社
右代表者代表取締役
長瀬富昭
右訴訟代理人弁護士
畠山保雄
同
田島孝
同
松井秀樹
同
川俣尚高
同
山崎郁雄
同
石田英遠
被控訴人(反訴被告)
有限会社江川企画
右代表者代表取締役
江川芳三
右訴訟代理人弁護士
山根二郎
主文
一 原判決中、控訴人(反訴原告)の敗訴部分を取り消す。
二 右部分に関する被控訴人(反訴被告)の請求を棄却する。
三 控訴人(反訴原告)と被控訴人(反訴被告)との間において、被控訴人(反訴被告)が、昭和六三年九月二日控訴人(反訴原告)との間で締結した別紙一「花王ソフィーナ・ビューティプラザ契約書」記載の契約上の地位を有しないことを確認する。
四 訴訟費用は、第一、第二審とも(反訴に関する分を含む。)被控訴人(反訴被告)の負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人(反訴原告。以下単に「控訴人」という。)の控訴の趣旨及び当審における反訴請求の趣旨
主文と同旨
二 被控訴人(反訴被告。以下単に「被控訴人」という。)の答弁
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴人の当審における反訴請求を棄却する。
3 当審における訴訟費用は、控訴人の負担とする。
第二 事案の概要
本件は、被控訴人が、控訴人に対し、昭和六三年九月二日に締結された別紙一「花王ソフィーナ・ビューティプラザ契約書」(以下「本件契約書」という。)記載の契約(以下「本件特約店契約」という。)に基づき、被控訴人の注文に係る花王ソフィーナ化粧品(以下「花王化粧品」という。)につき、控訴人から右注文後二日以内にこの引渡しを受けるべき地位にあることの確認、及び、別紙二「花王ソフィーナ化粧品目録」記載の化粧品(以下「本件化粧品」という。)の引渡しを求めたのに対し、控訴人が、平成四年六月三日到達の解約の意思表示により、右契約は終了したとして、被控訴人の右請求を争うとともに、当審において、被控訴人に対し、被控訴人が右契約上の地位にないことの確認を求めて反訴を提起した事案である。
一 判断の前提となる事実(文末に証拠を掲記したもの以外は、当事者間に争いのない事実である。)
1 被控訴人は、化粧品の小売販売を業とする会社であり、控訴人は、花王化粧品の卸売販売を業とする会社である。
2 花王化粧品東北株式会社とビューティコンサルタント「ハープ」こと江川芳三は、昭和六三年九月二日、花王化粧品につき本件特約店契約を締結した。
3 その後、控訴人は、本件特約店契約における花王化粧品東北株式会社の地位を、被控訴人は同じく江川芳三の地位をそれぞれ承継した。
4 本件特約店契約の内容は、控訴人が被控訴人の注文に基づき、控訴人が販売する花王化粧品を被控訴人に継続して供給する、被控訴人が控訴人から引渡しを受けた花王化粧品の購入代金(控訴人の付けたメーカー希望小売価格の七割)を、毎月二〇日締切りで翌月五日限り控訴人に支払うというものである。
本件特約店契約の有効期間は、締結日より昭和六四年四月三〇日までとするが、期間満了の三〇日前までに当事者の一方から申し出がないときには更に一年間自動的に延長され、以後もこれにならって継続するものとされている。ただし、当事者は本件特約店契約を三〇日以上の予告期間をおいて文書により解約できることとされている(本件契約書一五条二項。甲三)。
5 控訴人は、被控訴人に対し、平成四年六月二日付け内容証明郵便により本件特約店契約を解約する旨の意思表示(以下「本件解約」という。)をし、以後被控訴人に対し、花王化粧品の出荷を停止している。本件解約は、本件契約書一五条二項に基づき三〇日の予告期間をおいてされたものであり(甲四)、右内容証明郵便は同月三日被控訴人に到達した(弁論の全趣旨)。
6 被控訴人は、平成四年六月三日から同月二五日までの間、控訴人に対し、本件化粧品の注文をして、その引渡しを求めたが(甲五の1ないし4)、控訴人はこれに応じない。
二 争点
本件における主たる争点は、本件解約の有効性如何、すなわち、本件解約は、被控訴人に本件特約店契約違反の事実が存しないにもかかわらず、被控訴人の値引販売を中止させる目的をもってされたもので権利の濫用に当たり、あるいは、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)に違反するものとして、無効となるか、である。
三 争点に関する当事者の主張
1 控訴人
(一) 本件解約は、本件契約書一五条二項に基づくものであるところ、同条項は、予告期間を三〇日以上おくことを定めるほかは、解約に何らの理由も要求していないから、右手続に従えば、何らの理由もなしに解約することができるのである。
(二) 次の(三)のような事情があるから、本件解約は権利の濫用にはならない。
(三) 仮に、本件特約店契約の解約にはやむを得ない事由が必要であるとしても、次のような事情があるから、やむを得ない事由があるというべきであって、本件解約は有効である。
(1) カウンセリング販売義務の違反
化粧品は、使用する者個々人の肌質に適したものであることにより初めて、その効用を最大限に発揮することができるものであり、また、素肌に直接塗るため、使用者の体質如何によっては、アレルギー等の皮膚障害を起こすおそれもないとはいえない。したがって、化粧品の販売に当たっては、小売業者がその正確な商品知識を習得し、顧客個々人に対してそれぞれの肌質に合った化粧品を選定して推奨し、更に具体的な使用方法について説明助言することが不可欠となるのである。
そこで、本件特約店契約においては、被控訴人が花王化粧品を販売するに当たり、①的確な情報を消費者に提供し、積極的に推奨販売すること(本件契約書六条二項)、②消費者に適切な説明及びアフターサービスを行うこと(同八条一項)などを内容とする推奨販売(以下「カウンセリング販売」という。)をすることが義務付けられている。
しかるに、被控訴人は、右約定に違反して、控訴人から供給を受けた花王化粧品の大部分を他の業者へ卸売販売をし、カウンセリング販売をすることなく販売していた。
仮に、卸売販売の事実が認められず、職域販売をしていたとしても、被控訴人の職域販売は、商品説明等を全く予定していないという点において、本件特約店契約において定められたカウンセリング販売とはいえないものである。
自由主義経済においては、商品をいかなる方法等で販売するかは、それが強行法規、公序良俗に反しない限り、メーカー側の意向が尊重されるべきである。化粧品の販売方法には、販売コーナーの設置、説明販売及び推奨販売、顧客台帳の作成、セミナーへの参加等を義務付ける販売方法をとり、これに賛同する小売業者とのみ取引をするという、いわゆる制度品チャネルもあり、このような義務条項を伴わない一般品チャネルもあり、他に、訪販品チャネル、通販品チャネル等もあるが、花王化粧品を販売するためにどの販売方法をとるかは、控訴人の選択に委ねられており、控訴人は、花王化粧品については、制度品チャネルを採用しているのである。
(2) 卸売販売禁止義務の違反
本件特約店契約は、本件契約書一条以下に明記されているとおり、特約店が直接消費者に販売するという小売販売のための化粧品供給契約であり、卸売販売を禁止しており、これにより消費者に対するカウンセリング販売の実施を貫くことができるとともに、一定の水準以上の店舗で販売されるというブランドイメージの保持及び短い流通システムをとることによるマーケティング政策上の利点の確保ができるのである。しかるに、被控訴人は、遅くとも平成三年二月ころからは、控訴人から供給を受けた花王化粧品の大部分を他の業者へ卸売販売をしていた。本件解約当時において、少なくとも、被控訴人が卸売販売をしていると疑うに足りる合理的な事情があった。
なお、被控訴人が当審において初めて明らかにした株式会社富士喜本店(以下「富士喜」という。)との提携販売なるものは、卸売販売にほかならず、しかも、富士喜の行っている職域販売なるものは、カタログを利用した通信販売であって、本件特約店契約に定められたカウンセリング販売とはいえないものである。
(3) 信頼関係の破壊(本件特約店契約を継続し難い重大な事情の存在)
控訴人は、右(2)のように、被控訴人が卸売販売を行っているとの合理的な疑いを抱いたため、被控訴人に対し、再三にわたり、花王化粧品の販売先等を明らかにするよう求めたが、被控訴人はこれに応じなかった。これは、本件特約店契約に定められた在庫及び売上状況の調査に協力する義務(本件契約書八条二項)に違反するものである。また、被控訴人は、カウンセリング販売を実施する意思を有しなかった。そのことは、控訴人からの再三の要求にもかかわらず、職域販売先への美容インストラクターの派遣に応じないばかりか、控訴人が実施するセミナーにもあまり出席しなかったことからも明らかである。
したがって、控訴人と被控訴人との間の信頼関係はすでに破壊されていたのであって、本件特約店契約を継続し難い重大な事情が存したものというべきである。
(4) 独禁法違反の不存在
本件解約は、以上のような理由からされたものであるから、再販売価格維持行為ではなく、独禁法に違反しない。
また、本件特約店契約におけるカウンセリング販売及び卸売販売禁止の約定が独禁法に違反しないことは、以下のとおりである。
カウンセリング販売の義務は、メーカーと小売業者という垂直的関係にある者の間に発生する義務であって、市場における競争業者間の契約のようにいわば水平的関係の義務とは異なるのであるから、種々の要素を比較考量した上で、独禁法一九条で禁止された「不公正な取引方法」に当たるか否かが決せられる。すなわち、①その義務を要求するメーカー側に合理性があるか、②当該メーカーの市場における地位はどの位か、③それによって市場に何か悪い、すなわち反競争的な影響が発生する可能性があるかなどといった諸点の比較考量によって決せられるのである。ところで、本件特約店契約におけるカウンセリング販売義務は、化粧品にカウンセリングという付加価値を併せて販売するという販売政策の点からも、皮膚トラブルの防止という点からも合理的な理由があることは明らかである。また、控訴人は、化粧品業界においては、新規参入者であり、業界六位とはいえ、化粧品全体では3.7%、皮膚用化粧品及び仕上用化粧品の分野でも6.5%の市場占拠率にすぎず、市場に対する支配力を有しないのである。そして、カウンセリング販売という販売方法が、一般的傾向として価格安定の効果をもたらすとしても、その是非は市場の自由な選択に任されるべき問題であり、控訴人は、右の販売方法を手段として小売業者の販売価格を制限しているわけではない。したがって、カウンセリング販売を義務付けることは、独禁法に違反しない。
このことは、公正取引委員会が平成三年七月に公表した「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(以下「ガイドライン」という。)が昭和五七年六月一八日公正取引委員会告示一五号「不公正な取引方法」(以下「一般指定」という。)一三項に関して「メーカーが小売業者に対して、販売方法(販売価格、販売地域及び販売先に関するものを除く。)を制限することは、商品の安全性の確保、品質の保持、商標の信用の維持等、当該商品の適切な販売のための合理的理由が認められ、かつ、他の取引先小売業者に対しても同等の条件が課せられている場合には、それ自体は独占禁止法上問題となるものではない。」としていることからも明らかである。
卸売販売禁止の義務も独禁法一九条に違反しない。すなわち、カウンセリング販売の義務は、合理性を有するところ、消費者以外の者に販売を行ってはならない義務、すなわち、卸売販売禁止の義務をその内容としているから、卸売販売禁止の義務もまた合理性を有するものであり、加えて、右の義務は、ブランドイメージの保護及び短い流通システムをとることによるマーケティング政策上の利点の確保の観点からも合理性を有する。そして、控訴人の化粧品業界における市場占拠率からすれば、化粧品の横流しを禁止しても当該化粧品の価格が維持されるおそれがあるとはいえないのである。
(四) 本件化粧品の引渡義務はない。すなわち、本件特約店契約は、継続的取引における基本契約であり、それがあるからといって、被控訴人の注文により直ちに控訴人と被控訴人間に個々の花王化粧品に関する売買契約が成立するものではない。被控訴人から種類、名称、数量、代金等を特定した注文がされて、控訴人がこれを承諾して初めて、控訴人が引渡義務を負うこととなるのである。控訴人は、被控訴人の本件化粧品の注文に対してこれを承諾していないから、未だ本件化粧品の引渡義務を負ってはいないのである。
また、本件契約書一六条は、契約終了時には、被控訴人が供給を受けた花王化粧品の在庫を控訴人に引き渡すべきことを規定しているところ、右規定の趣旨からすれば、控訴人は、契約終了時に被控訴人の在庫となるような花王化粧品の発注に応じる義務はないというべきである。本件化粧品の注文は、本件解約の通知が到達した後のものであり、被控訴人は、既に大量の花王化粧品の供給を受けており、本件化粧品の供給を受けても、それが平成四年七月三日の契約終了時に在庫となることは明らかであるから、控訴人には、本件化粧品の引渡義務はないものというべきである。万一引渡義務が生じたとしても、本件特約店契約終了後は、本件化粧品は控訴人に返還されるべきものであるから、被控訴人の引渡請求権は失効している。
しかも、被控訴人はカウンセリング販売をしていなかったから、控訴人が本件化粧品の発注及び引渡しを拒絶する正当な事由がある。
2 被控訴人
(一) 本件特約店契約は、いわゆる継続的供給契約であるところ、次の諸事情を考慮すると、控訴人の本件解約は権利の濫用であって、無効である。
(1) 本件解約の意図、目的
控訴人がした本件特約店契約の解約の真の意図ないし目的は、被控訴人のみが行っていた花王化粧品の値引販売を阻止するとともに、これを行おうとする他店を威嚇することにあった。
すなわち、被控訴人は、控訴人から仕入れた花王化粧品を店舗で店頭販売するほか、電話又はファックス注文により多数の職場の顧客に対していわゆる職域販売をしており、職場の顧客から注文があった場合には、メーカー希望小売価格の一割ないし一割五分引きで値引販売をし、その注文に係る品をその職場にまとめて配達配送していた。また、被控訴人は、東京浅草に店舗を有し、長年にわたって化粧品の職域販売を行っている富士喜と販売提携をし、控訴人から購入した花王化粧品を職場の顧客に販売してきたものである。なお、この富士喜は、昭和三〇年以来、各メーカーの化粧品を職場の顧客に一割五分から二割引きで配達販売(職域販売)してきた化粧品の安売り店である。控訴人は、被控訴人が富士喜と提携して、このような職域販売を行ってきたことは熟知していた。
しかし、控訴人は、被控訴人のこのような値引販売を阻止する目的で、本件特約店契約を解約したものである。このことは、被控訴人以外に値引販売をしていた特約店がなかったこと、控訴人は、本件解約前には何らカウンセリング販売をしないことを問題としていなかったこと、本件解約通知書に何ら解約理由が記載されていないことなどからも明らかである。
(2) カウンセリング販売義務の不存在
本件特約店契約において、被控訴人にはカウンセリング販売が義務付けられていない。被控訴人は、カウンセリング販売ができるだけの資料すらも渡されていない。また、花王化粧品は、主要デパートでも電話注文によりカウンセリングをしないで販売されており、セルフ形式のスーパーマーケットでもカウンセリングを要しないいわゆるセルフ用化粧品として販売されているのである。化粧品は、薬事法二条三項により、人体に対する作用が緩和なものでなければならず、カウンセリングを聞かないで使用すると皮膚障害が起こるような危険なものが花王化粧品に存在するのであれば、それは薬事法違反であり、販売店の化粧品説明(カウンセリング)などで対応すべき問題ではない。控訴人も、本件解約前は、被控訴人が職域販売においてカウンセリングをしていないことを知っていたのに、それを全く問題としていなかった。
仮にカウンセリング販売が義務付けられているとしても、顧客がカウンセリングを希望していない場合にまで、カウンセリングをしなければならないわけではない。被控訴人の職域販売における顧客の大半は職場で働く女性であって、電話又はファックスにより花王化粧品を注文しており、そのような顧客は、既に継続して花王化粧品を使用しているから、その性質や効用を熟知していて、カウンセリングの必要はなく、また、実際にも顧客からその希望はないのである。このような場合にもカウンセリング販売を義務付けることは、消費者に対する不当な強制にほかならず、許されない。
仮に本件解約がカウンセリング販売の不実施を理由としてされたとすれば、控訴人は、日ごろは、カウンセリング販売の実施をやかましくいわないでおいて、被控訴人が値引販売をするや、にわかにカウンセリング販売の実施を迫り、それがされないとして、本件特約店契約を解約したものであり、まことに卑劣である。
(3) 卸売販売禁止義務の不存在
本件特約店契約において、被控訴人は卸売販売を禁止されていない。このことは、本件契約書上、特約店が卸売販売を行うことを直接的に禁止する規定がないこと、及び、本件解約後、控訴人が被控訴人以外の特約店との間で、わざわざ別紙三「覚書」記載の書式の契約を結ぶこととし、その中に「当プラザは、当プラザ内において消費者に直接、店頭販売をします。」との文言を入れていることから明らかである。
仮に卸売販売が禁止されているとしても、被控訴人と富士喜との販売提携は卸売販売には当たらない。
また、花王化粧品は、カウンセリング販売を必要としない化粧品であるから、カウンセリング販売の実施を確保するために卸売販売を禁止する必要があるとの論理は成り立ち得ない。
(4) その他の事情
① 被控訴人は、これまで、花王化粧品の仕入代金を遅滞なく支払っており、本件解約直前には注文と同時に代金を支払っていた。②被控訴人は、本件特約店契約締結後、花王化粧品の売上に全力を注ぎ、平成元年の後半には月間の売上高が常時二〇〇万円を超え、右売上は、被控訴人の総売上の約三六%を占めるに至った。そこで、被控訴人は、花王化粧品の売上を更に増大させるため、平成二年三月、金融機関から借り入れた約一九〇〇万円を投じて店舗の新築工事、内装、空調、照明等の設備工事を行った。本件解約は、右店舗新築からわずか二年二か月後にされたものであって、被控訴人は未だ右借入金すら返済していない。③被控訴人の花王化粧品の売上高はその後も増え続け、平成三年二月には月間の売上高が一〇〇〇万円を超え、本件解約直前の平成四年三月には約二二〇〇万円に達した。花王化粧品は、被控訴人にとって主力販売商品であり、控訴人以外からこれを仕入れることはできないから、控訴人から出荷を停止されることは、被控訴人に対し決定的打撃を与えるものである。④本件特約店契約は、本件解約までに三年九か月を経過していた。⑤控訴人は、花王株式会社の販売部門を担当する大会社であるのに対し、被控訴人は、零細な小売業者に過ぎない。控訴人は、日ごろ莫大な広告宣伝費を投じて全国の消費者に花王化粧品の購入使用を呼びかけており、被控訴人が控訴人から大量の花王化粧品を仕入れて販売することは、控訴人の利益になりこそすれ、何ら不利益となるものではない。⑥被控訴人の控訴人からの仕入高は、週一回被控訴人店舗を訪問する控訴人のアドバイザーとの取引折衝の結果決められたものであって、決して非難されるべきものではない。
(二) 本件解約は、独禁法に違反するもので無効である。
(1) カウンセリング販売について
控訴人は、カウンセリング販売を特約店に義務付けることによって花王化粧品の再販売価格を拘束しているのである。すなわち、各特約店に対し店頭のみでの販売を義務付ければ、各店の顧客はおのずから店頭に足を運ぶことができるごく狭い地域の人に限られることとなり、その店舗で扱うことができる数量は、極めて限定される。花王化粧品を大量に生産し、莫大な宣伝費を使ってその購入を呼びかけている控訴人が、各店舗の取引高を低く抑制することの真意はその店舗の売上高を低く抑制することによって、各店舗が値引することを採算上不可能にし、値引販売を根絶することにある。これこそが、控訴人のカウンセリング販売システムの意図ないし目的であり、被控訴人のようにこの店頭販売の経路から少しでも外れた者は、そのシステムに従わなかった者として排除(解約)されることになるのである。したがって、控訴人は、値引販売を根絶するためにカウンセリング販売システムを採用しているのであり、これは独禁法一九条に違反する。
(2) 卸売販売禁止について
仮に、本件特約店契約において卸売販売が禁止されており、被控訴人と富士喜との提携販売が卸売販売に当たるとしても、購入した化粧品を同業者(仲間)に販売すること(卸売販売)を全面的に禁止することは、独禁法上許されないものというべきである。このことはガイドラインが一般指定一三項に関して「仲間取引の禁止が、安売りを行っている流通業者に対して自己の商品が販売されないようにするために行われる場合など、これによって当該商品の価格が維持されるおそれがある場合には、不公正な取引方法に該当し、違法となる。」としていることからも明らかである。
控訴人は、被控訴人が卸売販売(仲間取引)をしているとの疑いのもとに、仙台市内の事業所や全国の事業所、都市銀行に対して被控訴人から花王化粧品を購入しているかどうかについて調査を行ったが、そのことは、その販売先を知ることによって、安売りを行っている流通業者に対して自己の化粧品が販売されないようにし、これによって自社製品の価格を維持しようと図っていることを物語っている。
第三 当裁判所の判断
一 本件特約店契約は、化粧品の継続的供給契約であるが、この存続期間中に、当事者の一方からこれを解約することができるとする解約権の留保は、契約自由の原則から許容され、法的に効力を有することはいうまでもない。本件契約書一五条二項は、三〇日以上の解約予告期間を設けているだけで、解約事由を定めていないから、一方当事者は、諸般の事情に照らして、信義則に違反し、又は、権利の濫用に当たり、あるいは、強行法規違反等の理由で公序良俗に反するといったいわゆる一般条項による制約があることは格別、そうでない限り、契約期間の満了前であっても、右条項の解約権に基づき、解約事由を挙げることなく、本件特約店契約を解除することができると解されるのである。
継続的供給契約であることなどを根拠にして、右の解約権の行使には、契約関係を継続し難いような不信行為の存在などやむを得ない事由を必要とするとの見解は、採用しない。
二 そこで、本件解約が信義則に違反し、権利の濫用に当たり、あるいは、公序良俗に違反して無効となるか否かについて検討するに、第二の一事実及び証拠(甲一ないし四、五の1ないし4、六、一〇、一三の1ないし8、一五の1ないし15、一六、一七、一八の1、2、一九、二一、二二、二四ないし二七、二九の1ないし5、四五、六二の1ないし4、六三、乙一、三の1、2、四ないし六、九ないし二一、二二の1、2、二三、二四の1ないし3、二五ないし三一、三二の1ないし20、三三ないし三五、三七、四一ないし四五、四七、四八の1ないし3、四九の1、五〇、五一の1ないし10、五二の1ないし10、五三ないし六〇、六一の1、2、六三ないし六七、六九の1ないし4(4については、更に一ないし六四三の枝番がある。)、七〇の1、2(更に一ないし一〇の枝番がある。)、七一の1ないし4(4については、更に一ないし三九〇の枝番がある。)、七三、七五の1(更に一、二の枝番がある。)、2(更に一ないし三の枝番がある。)、七六ないし七九、八〇の1ないし28、八一の1、八二の1ないし3、八三ないし八五、九二、九三の1ないし4(4については、更に一ないし二四一の枝番がある。)、九四の1、2(更に一ないし五一三の枝番がある。)、九五、九七、一〇二、一〇六、一二一ないし一二四、証人篠崎重雄(原審)、同坂田正憲(当審)、同畝本晶(当審)、被控訴人代表者(原審及び当番))並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
1 控訴人(その前身の会社を含む。)は、かねてより化粧品の小売業者と、花王化粧品につき、花王ソフィーナ・ビューティプラザ契約書により契約(以下「特約店契約」ともいう。)を締結して取引を行っていた。被控訴人の前身江川芳三が控訴人の前身花王化粧品東北株式会社との間で取り交わした本件特約店契約も右の特約店契約と同一のものである。
本件特約店契約の約定は別紙一の本件契約書のとおりであるが、契約の目的として「当プラザ(被控訴人)は、花王化粧品などの代表的販売店として、同商品を推奨販売し、その信用と名声を維持することにより、消費者の信頼を一層高めることを努力します。」(本件契約書一条三項)との規定があり、その内容には、前記(第二の一4)の条項(同一五条二項)のほか、「①当プラザは、当会社(控訴人)と協議のうえ、当プラザ内の最適な場所に商品を展示陳列します。②当プラザは、その場所において当会社が指定する方法で商品を展示陳列することにより、消費者の商品選択を容易にするとともに、的確な情報を消費者に提供し、積極的に推奨販売します。」(同六条)「①当プラザは、当会社より購入した商品を、当会社の定める保管方法にしたがって保管するとともに、商品の販売に際しては、当会社の指導するところにしたがい消費者に適切な説明およびアフターサービスなどを行います。②当会社は、当プラザの適正在庫を維持し売上を増進させるために商品の在庫および売上状況などを調査し、当プラザはこの調査に協力します。」(同八条)という条項があって、被控訴人が、花王化粧品専用の展示陳列場所を設置し、控訴人の指定する方法で、消費者の選択を容易にできるように展示陳列すべきこと、控訴人の指定する方法で在庫の保管をすべきこと、在庫及び売上状況の調査に協力すべきこと、花王化粧品の販売に際しては、控訴人の指導するところに従い消費者に適切な説明及びアフターサービスを行うとともに、的確な情報を消費者に提供し、積極的に推奨販売すべきこと(カウンセリング販売を実施すべき義務。以下「カウンセリング販売義務」という。)などを定めているのである。
また、本件契約書には、卸売販売を禁止する旨の明示の規定はないが、右のようにカウンセリング販売が義務と定められていて、それは性質上消費者と対面して行われるべきものであること、本件契約書の条項のうち右に掲記した六条、八条や九条一、二項等において、花王化粧品の販売対象者として一般の消費者が想定されあるいは当然の前提とされていること、同一二条において、店舗ごとに特約店契約を締結することとされ、契約を締結した店舗以外で花王化粧品を販売することはできない建前とされていることなどに鑑みると、特約店(小売業者)は、一般消費者に対して花王化粧品を販売することが義務付けられており、他の小売業者等に販売すること、すなわち、卸売販売は、予定されていないだけではなく、禁止されていると解するのが相当である(もっとも、他の小売業者等が特約店契約を締結している特約店の場合は格別であるが、本件ではこの場合は問題になっていない。以下でも、この場合は除外して検討する。)。卸売販売が禁止されていないと解すると、花王化粧品がカウンセリング販売の義務を負わず、これをしない小売業者に横流しされるおそれがあり、その結果、カウンセリング販売なしに花王化粧品が消費者に渡ってしまい、その販売について、小売業者を限定し、その小売業者と特約店契約を締結する意味が薄れるとともに、そのブランドイメージの保持(後記3参照)にも支障をきたすおそれがある。したがって、本件特約店契約において、卸売販売の禁止を遵守すべきこと(以下「卸売販売禁止義務」という。)が定められているものといえるのである。
2 花王化粧品は、個々の顧客の肌の悩みに細かく答えることができる化粧品を開発しようとの方針のもとに、最新の皮膚科学の知見に基づき、肌にとってよい化粧品は何かという観点から分析、研究、開発され、昭和五七年に制度品(制度販売品。メーカー系列の販売会社が小売業者との間で、カウンセリング販売、専用コーナー設置の義務等を定めた特約店契約を締結する取引形態を採用し、この形態によって販売する商品を指す。このような取引形態を採らない点で、一般品(一般販売品)、訪販品(訪問販売品)、通販品(通信販売品)等と異なる。)として花王株式会社により発売された化粧品である(なお、同社は、他に多くの化粧品を一般品として販売している。)。控訴人は、平成元年一〇月五日花王株式会社が一〇〇%の出資をして設立した花王化粧品の販売会社である。
花王株式会社の平成三年度におけるマーケットシェアは、業界六位であり、全化粧品市場で約3.7パーセント、花王化粧品の販売アイテムである皮膚用化粧品及び仕上用化粧品の市場で約6.5パーセントであった(甲五五は、対象品として、薬用石けん、入浴剤等も含むものであり、採用しない。)。
3 控訴人は、化粧品について次のような販売理念を持っている。すなわち、化粧品というものは、顧客がそれを使用してより美しくなるために購入する商品であるから、単に物としての価値以上に、これを使用してより美しくなるという機能に着目して販売される必要がある。化粧品は、メーカーによっても、個々の化粧品によっても、その使用法が異なり、また、顧客の化粧習慣や化粧品の組み合わせ方も様々である一方、顧客の肌の性質、状態も、その年齢や体調、使用する季節等により様々であるし、その美意識も千差万別であるところから、化粧品としての機能を十分発揮するには、顧客の肌の性質、状態、化粧ニーズ等に合った化粧品の選択や、効果的な使用方法の伝達が不可欠である。そして、顧客の多くもそのような情報を求めているところ、テレビ、雑誌やカタログ等の一般的な説明だけでは、これらの多様なニーズに対応できない。顧客が個々人の肌の性質、状態に適合した化粧品を正しく使用するようカウンセリングを受けることによりその機能が最大限に引き出されるとともに、その結果顧客の満足感が得られることとなり、控訴人の販売する化粧品に対する顧客の信頼(ブランドイメージ)が高められ、それにより更に販売が促進されることとなる。
4 控訴人は、右の理念から、主としてこのようなカウンセリングを受けたい顧客を対象として、花王化粧品を制度品として販売することとしている。また、控訴人は、カウンセリング販売によって、顧客がその体質等に合わない化粧品を使用することにより稀に生じ得る軽度の皮膚障害(皮膚トラブル)を未然に防止することにも寄与すると考えている。そして、控訴人は、このような販売理念、販売方法に賛同し、右販売方法を実施する意思と能力(経営基盤等)があり、花王化粧品のブランドイメージに相応しい店舗の形態、売場を持ち、又は、持ち得る小売業者を選別し、これを対象として特約店契約を締結している。また、控訴人は、同一の小売業者であっても、店舗によってカウンセリングの態勢が整っているかどうかを判断するため、店舗ごとに特約店契約を締結することとしている。現に、控訴人は、本件特約店契約を締結する際に、被控訴人からその経営に係るエステティックサロンにおいても花王化粧品を販売したいとの申入れを受けたが、そこではカウンセリング販売の態勢がとれないことを理由にこれを断ったことがある。したがって、特約店がカウンセリング販売を実施すること、少なくともカウンセリング販売を実施できる態勢を整えておくことは、本件特約店契約の重要な要素となっており、実際にも、ほとんどの特約店がこの態勢を整え、これを実施することとしている。なお、控訴人は、富士喜から取引開始の申込みを受けたが、富士喜の通信販売を基本とする販売方法ではカウンセリング販売が実施できないと考えて、特約店契約の締結を断っている。
控訴人は、特約店がカウンセリング販売の態勢を整えるために、花王化粧品についての商品知識、推奨技術を習得することを目的として、特約店を対象とした定期的なセミナーや新製品セミナー等を開催して特約店の出席を求めたり、美容講座テキスト等を配布したり、週一回程度ストアアドバイザーを派遣するなどしている。その際、控訴人は、特約店に対し、化粧品の選定に当たっては、肌の性質、状態や化粧実態を詳しく把握するために、カウンセリング販売時に顧客に対して肌診断を受けるよう勧めるとともに、診断結果に基づき適切なアドバイスを行うこと、これにより知り得た顧客個々人の肌の性質、状態、使用化粧品、アドバイス内容を顧客台帳に記載することにより、より適切なカウンセリング販売を実施するとともに、皮膚トラブルを未然に防止することなどを指導している。なお、控訴人が開催したセミナーへの被控訴人の出席率は、一六回のうち三回出席というもので、被控訴人の出席率は他の特約店のそれと比較して格段に悪かった。
控訴人は、よりレベルの高いカウンセリング販売を奨励するという販売政策の下に、売場の形態が一定の物理的条件を充たす特約店に対しては、最高でその仕入高の九%に相当する金額を売場機能費として、十分な推奨活動をしている特約店に対しては、同じく四%に相当する金額を推奨機能費として支払っていた。被控訴人も一応この条件を充たす特約店とされ、右各機能費計一三%相当額の支払を受けていた。
5 控訴人は、花王化粧品の小売価格について、メーカー希望価格としての定価を設定してはいるが、特約店契約上、定価販売を義務付ける規定はないし(本件契約書五条によれば、再販売価格維持契約対象商品については、別途再販売価格維持契約を締結することとされている。)、値引販売をしないよう特に指導しているわけでもない。
6 被控訴人は、その店舗を仙台市若林区南小泉(肩書本店所在地)に置き、同店舗で花王化粧品のほか、資生堂、カネボウ、コーセー、マックスファクター等の化粧品をそれぞれの特約店契約に基づいて販売していたが、平成二年五月に店舗を新築してからは、店舗の名称を「C&Dえがわ」に改め、医薬品の販売も行うようになった。被控訴人は、本件特約店契約締結後、控訴人に対し、毎週訪問する控訴人のストアアドバイザーを通じて、化粧品名、数量等により花王化粧品を注文し、控訴人は、被控訴人の注文に係る化粧品を定価の七割で継続的に出荷販売していた。控訴人と被控訴人との間の月間取引高は、別紙四「取引高推移表」記載のとおりであり、本件特約店契約締結当初の昭和六三年九月の取引高は約九〇万円であったが、一年後の平成元年九月には約二六〇万円に、平成二年五月には五〇〇万円台に増加し、平成三年二月には一〇〇〇万円を超え、同年六月から一〇月までは減少して一〇〇〇万円を割ったものの、同年一一月からはまた一〇〇〇万円を超え、平成四年三月には約二二〇〇万円にも達した。被控訴人の平成四年一月の仕入高は、一二六八万三五六八円であり、これは、同月における東北地区特約店の一店舗当たりの平均仕入高約一九万円の約六六倍、宮城県の内の特約店一店舗当たりの平均仕入高約三〇万円の約四二倍に当たり、同月における東北地区全体の仕入高の約7.9%、宮城県全体の仕入高の約24.9%を占めるものであった。また、被控訴人の平成三年一〇月から平成四年三月までの六か月間の取引高は、約八一七〇万円にものぼっているが、これは東北地区第一位(被控訴人を除く。)のダイエー仙台店の同時期の取引高約三八九七万円の二倍を上回る金額であり、阪急百貨店をしのいで全国一位に相当するものである。なお、被控訴人は、本件特約店契約締結の遅くとも一年後位からは、富士喜に対して控訴人から供給を受けた花王化粧品の大部分(本件解約に近い時期には、九割にも及んでいた。)を販売していたが、この事実を控訴人には告げず、控訴人はこの事実を知らなかった。
7 控訴人の東北地区販売部長篠崎重雄(以下「篠崎」という。)は、平成二年夏ころ、被控訴人の仕入高が同規模の特約店と比較して極めて多いことに不審を抱き、被控訴人が控訴人から仕入れた花王化粧品の相当の部分を控訴人の特約店でない他店に卸売販売(いわゆる横流し)しているのではないかと考え、同年一一月ころ被控訴人店舗を訪れ、被控訴人代表者江川芳三(以下「江川」という。)に対してどのような販売方法をとっているのかを尋ねた。これに対し、江川は、被控訴人においては、店頭販売のほかに病院や事業所に職域販売を行っており、この職域販売において大量の花王化粧品を販売している旨答えたものの、それ以上の詳しい説明はしなかった。篠崎は、江川の右回答に納得できず、江川に対して、職域販売の内容を明らかにするよう求めるとともに、もし、これを行っているのであれば、契約に従ってカウンセリング販売を実施して欲しい旨を申し入れた。しかし、江川は、職域販売の具体的内容、販売先を一切明らかにしなかった。
被控訴人の仕入高は以後も増え続けたため、篠崎は、平成三年五月ころ、再度被控訴人店舗を訪れ、江川に対し前同様の申入れをするとともに、職域販売先への美容インストラクターの派遣を申し出、また、カウンセリング販売が実行されていないと考えられる職域販売分については前記4の推奨機能費のカットも検討せざるを得ない旨を告げたが、江川は、職域販売の具体的内容、販売先を明らかにしなかったばかりか、美容インストラクターの派遣を断り、その理由も説明しなかった。
被控訴人の仕入高が同年一二月には一六〇〇万円にも達したため、控訴人のエリアマネージャー(各県に一名ずつ配置された営業責任者)である牧野康範は、被控訴人が大量の花王化粧品を横流ししているのではないかとの疑念に基づき、平成四年二月六日ころ、被控訴人店舗を訪れ、江川に対し、発注書を見せて欲しい、職域販売先、販売経路、代金の回収方法等を明らかにして欲しいと要望するとともに、職域販売先への美容インストラクターの派遣を申し出たが、江川は、いずれもこれを拒否した。
篠崎は、同月一二日ころ、江川に対し、重ねて右同様の申し入れをしたが、江川はこれを拒否したため、被控訴人が任意に職域販売先等を明らかにする意思がないものと認め、同年三月九日ころ、被控訴人に対し、出荷販売した花王化粧品の代金回収上の問題と本件契約書八条二項の売上状況の調査に協力する義務を根拠として、販売先を明らかにするよう要求し、また、仕入高を月額六〇〇万円程度に減縮するよう申し入れるとともに、職域販売分の推奨機能費のカットを示唆した。これに対して江川は、現金決裁を提案したが、販売先を明らかにすること及び仕入高を減縮することは、いずれもこれを拒否した。
控訴人は、右のような被控訴人の対応の仕方(花王化粧品の販売先等を明らかにしないこと、美容インストラクターの派遣の提案に対して、合理的理由もなく、これを拒否していること、セミナーへの出席率も悪いことなど)と、その仕入高が通常の特約店と比べると格段に高いのに、被控訴人の説明する職域販売で、これを販売していることを裏付ける的確な資料がないことなどに照らし、被控訴人が控訴人から仕入れた大量の花王化粧品につき、これを自ら職域販売はしておらず、店頭販売をしている分以外は、すべて卸売販売をしていると推察していた。
控訴人は、平成四年六月二日付けで本件解約を行い、同日以降、被控訴人に対する花王化粧品の出荷を一切停止した。
被控訴人は、当審において初めて、控訴人から供給を受けた花王化粧品のうちの大部分(八、九割相当)を富士喜との提携販売による職域販売で販売していた旨を明らかにするに至った。なお、富士喜は控訴人と特約店契約を締結しておらず、富士喜が行う販売方法は、カタログを利用した通信販売に近いものであり、販売に際し、顧客と対面しての説明、相談等は全く予定されておらず、カウンセリング販売とはいえない形態のものである。そして、被控訴人から富士喜へ供給された花王化粧品の消費者への販売については、受注、その小分け、梱包、職場への配送、代金の回収は、すべて富士喜がその名において行っていて、被控訴人は全く関与していないのであり、したがって、被控訴人から富士喜への販売は、控訴人から供給された花王化粧品についての卸売販売にほかならないということができる。
8 控訴人が花王化粧品の販売につき、特約店を通じてのカウンセリング販売の方法によるべきこととしていることは、前記1のとおりであるが、有名デパートの化粧品売場でも、控訴人の特約店の中にも、その客が当該化粧品について既に説明を受けているか否かを確認することもなく、電話の注文に応じて花王化粧品を配送する例がある。また、本件特約店契約と同旨の特約店契約を結んでいるスーパーマーケットにおいても、客自身が化粧品を手に取って選べるといういわゆるセルフ・セレクション方式で花王化粧品を販売している例もある。そして、控訴人自身、従前は美容部員によるプッシュ(販売勧誘)を売り方の基本としていたのに対し、花王化粧品の販売方法をセルフ・セレクション方式を柱とする旨表明している。しかし、セルフ・セレクション方式を採用することとカウンセリング販売を行うことは、両立し得るものであって、必ずしも矛盾するものではなく、現に、セルフ・セレクション方式を柱とする販売店においても推奨販売担当者は存在しており、お客から要望があった場合や必要に応じてカウンセリング販売を行える態勢は採られているのであって、なお相当多数の花王化粧品が、特約店における店員によるカウンセリング販売によって販売されているのである。のみならず、特約店の約八割五分はカウンセリング販売が売上増加や顧客の増加に役立っているとの認識を有しており、カウンセリング販売態勢の充実が顧客及び売上の拡大に一定の寄与をしている面がある。ちなみに、平成六年度三月期における花王化粧品の全体年間売上は、前年度比一〇四%であるのに対して、カウンセリング販売がより充実していると考えられる控訴人のアドバイザーが常駐するデパート、スーパーでの同売上高は、前年度比一一〇%となっている。また、控訴人は、平成四年から平成五年までの二年間に、カウンセリング販売態勢が整っていないことを理由として二八の特約店と特約店契約を合意解約している。そして、大手スーパーで顧客一〇〇〇名を対象に、化粧品を購入する際に何を最も重視するかについてアンケート調査を実施した結果は、「肌との相性」と答えた人が37.3%、「機能性」が30.5%、「ブランド」が15.4%、「価格」が12.1%であり、顧客の最も多い層が化粧品購入に際し、肌との相性を最重視するということは、カウンセリングに対する消費者の要望が依然として高いことを物語るものである。
そうすると、対面カウンセリング販売が全く有名無実化しているものとはいえないことはもとより、カウンセリング販売態勢の充実度に応じて相当の営業効果を生んでいると評価することができる。
9 花王化粧品は、特約店において原則として定価(メーカー希望価格)で販売されているが、現在値引率はともかく、値引販売をしている特約店も若干は存在するのであり(乙八二の1ないし3によれば、平成四年六月当時値引販売をしていた特約店は、少なくとも八四店は存在した。)、平成四年の流通問題研究会の調査によれば、制度品について約二割の小売業者がメーカー希望小売価格より値引きしていたとされている。しかし、控訴人は、これらの特約店との間における特約店契約を値引きを理由に解約してはいない。
被控訴人は、平成四年七月二九日、公正取引委員会に対し、控訴人のした本件解約は、被控訴人が花王化粧品を控訴人の希望小売価格より割引した価格で販売したことを理由とするものであり、再販売価格を拘束するためのものであって、不公正な取引方法に該当するとして、独禁法に違反する旨申告した。これに対し、公正取引委員会事務局の担当部局は、調査をした後の平成八年一月一二日ころ、独禁法違反の事実は認められないから何らの措置も採らないとの結論を出して、その旨を被控訴人に通知している。
被控訴人が店頭において花王化粧品の値引販売を行っているのを控訴人が知ったのは、本件解約後、被控訴人から平成四年六月三日付け注文書が送付された後である(同書面には「平成四年六月一日より、店内において花王化粧品を二割引きにて推奨販売を実施した」との記載があり、その以前からこれを知っていたことを認めるに足りる証拠はない。)。
以上の事実が認められる。証拠(甲二七、被控訴人代表者(原審))中には、篠崎が平成四年三月九日に被控訴人店舗を訪れた際に、「きちっとした価格で」販売してもらわないと困る旨を述べたとする部分が存するが、これは証拠(乙八一の1、九二、証人篠崎重雄)に照らして、にわかに採用できない。また、証拠(被控訴人代表者(当審))中には、花王化粧品は全く値引販売されていないとする部分があるが、それは、被控訴人代表者の推測を述べるものであるうえ、被控訴人代表者自身例外的にわずかに値引きしている小売業者があることを認めているのであって、前記9の認定を左右しない。
三 以上の事実関係に基づき、本件解約が信義則に反するか、公序良俗に反するかなどについて判断する。
1 まず、本件解約における控訴人の意図ないし動機であるが、前記二7によれば、控訴人は、本件特約店契約に基づきカウンセリング販売、卸売販売禁止の実施を約定した被控訴人が、控訴人から供給を受けた大量の花王化粧品の大部分を右の義務に違反して卸売販売をしているとの疑いが生じたため、それにつき指摘をしたが、被控訴人から合理的な説明も釈明もなく、かえって、被控訴人は右の疑いを増幅させる対応に終始し、右の義務を履行しようとの姿勢を示さなかったので、もはや本件特約店契約を解消するほかはないと考え、本件解約を行ったものと認められる。
これに対し、被控訴人は、本件解約は、被控訴人の行っている値引販売を止めさせるためにされたものであると主張する。しかし、控訴人が本件解約当時、被控訴人が店頭において花王化粧品の値引販売をしていたとの認識を持っていたと認められないことは、前記二9のとおりである。この点について、被控訴人は、職域販売において大量の花王化粧品を大幅に値引販売しており、これを控訴人は知っていたというが、控訴人は、被控訴人自身が職域販売を行っていることにつき強い疑問を持っており、その疑問は本件解約に至るまで解消しなかったのであるから(前記二7)、控訴人が右の職域販売で値引販売がされていたとの認識を有していたということはできない(なお、控訴人が店頭以外の場所で販売活動を行っていたかに関しては(ただし、富士喜に対する販売を除く。)、単発的な配達販売等はともかく、系統立てて職域販売をしていたことは、これを肯定する原審の被控訴人代表者尋問の結果は全く裏付けがないので採用できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。そうすると、被控訴人が繰返し主張する職域販売での値引きなるものは、被控訴人の行為としては架空のものであり、結局、富士喜のしている値引販売をいかにも自己が行ったかのように主張していたに過ぎないと考えざるを得ない。)。そして、控訴人の担当者も、専ら卸売販売がされているとの疑念から、被控訴人の販売先、販売方法を明らかにするよう申し入れ、その是正を働きかけていたのであって、被控訴人の値引販売を是正するよう働きかけてはいないこと、花王化粧品を値引販売している被控訴人以外の特約店が存在していたにもかかわらず、それらに対しては特約店契約の解約とか出荷停止の措置がとられていないことなどからすると、被控訴人の右主張は採用できない。
また、被控訴人は、控訴人が本件解約の通知において、その理由を述べていないことは、本件解約の真の理由(値引販売の中止)を明らかにしたくないからであり、カウンセリング販売、卸売販売禁止の義務違反は口実にすぎないと主張する。しかし、本件解約は、本件契約書一五条二項に基づくものであるところ、これによる解約は、解約事由を挙げることを要しないのであり(前記一)、そのため、控訴人は本件解約の通知に解約の理由を明記しなかったのであり、しかも前記二7の交渉経過に照らすと、その真意が被控訴人主張のようなものでないことは明らかであって、右主張は失当である。
2 次に、本件特約店契約におけるカウンセリング販売、卸売販売禁止といった販売方法をとるべき義務の約定が契約上の法的な債務か否かについて検討するに、商品のメーカー又はこの実質的支配下にある販売業者(以下「メーカー等」という。)が、小売業者との間で特約店契約等の継続的供給契約を締結するに当たり、商品の販売場所、保管方法、陳列方法を指示したり、消費者に対する商品説明及びアフターサービス等を指示したり、あるいは、これを実効あらしめるため卸売販売を禁止するなどの販売方法に関する約定をすることは、その販売方法が著しく不合理であったり、あるいは、全く無意味であるというのであれば格別、そうでない限り、契約自由の原則から当然許されるものであって、これら約定は、契約内容として当事者を拘束する法的な効力を有することはいうまでもない。自由主義経済制度のもとにおいては、商品につき、どのような販売理念、販売政策に基づき、どのような販売方法をとるかは、原則としてメーカー等の自由に委ねられているのである。
3 右に関し、被控訴人は、本件特約店契約におけるカウンセリング販売や卸売販売禁止という販売方法の約定及び本件解約は、いずれも独禁法に違反するものであって法的な効力を有しないと主張する。
独禁法に違反する私法上の行為の効力は、強行法規違反の故に直ちに無効となるとはいえないが、違反行為の目的、その態様、違法性の強弱、その明確性の程度等に照らし、当該行為を有効として独禁法の規定する措置に委ねたのでは、その目的が充分に達せられない場合には、公序良俗に違反するものとして民法九〇条により無効となるものと解される。
本件特約店契約におけるカウンセリング販売、卸売販売禁止という販売方法の約定は、メーカー等と小売業者との間の契約であり、独禁法との関係では、同法一九条が禁止している「不公正な取引方法」の中の「相手方の事業活動を不当に拘束する条件をもって取引すること」に該当する行為であって、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するもの(同法二条九項四号)が関わるということができ、結局、一般指定(公正取引委員会告示)の一三項が問題となる
そこでまず、カウンセリング販売に関し検討するに、本件特約店契約のような、メーカー等と小売業者との契約は、市場における競争事業者の間の契約とは異なり、それ自体直ちに公正な競争を阻害する性質のものではないこと、本件特約店契約において、小売業者が実施することとされているカウンセリング販売という販売方法は、メーカー等にとって、対象の化粧品にいわばカウンセリングという付加価値を併せて販売するという販売政策上の理由(カウンセリングにより、顧客に個々人の肌の性質、状態等に適合した化粧品を正しく使用してもらうことができ、化粧品の機能が最大限に引き出されるとともに、その結果顧客の満足感が得られることにより、化粧品に対する顧客の信頼(ブランドイメージ)を保持することができるというものである。)及び顧客の皮膚に関するトラブルを防ぐという理由が存在するとされ(前記二4、5)、いずれの理由も客観的、普遍的な合理性を有するとまではいえないものの、一応の合理性があると考えられること(前記二8参照)、一応の合理性のある販売方法は、それが性格上価格安定の効果を有するとしても、販売価格の制限の手段として用いられているといえない以上、その是非は市場の自由な選択に委ねられるべきであること、本件特約店契約において、右の販売方法が小売業者の販売価格を制限する手段として用いられていることを認めるに足りる具体的な証拠はないこと、控訴人が特約店契約を結んでいる他の小売業者との間でも、全く同一の約定を結んでいること、しかも、控訴人を支配しているメーカーの花王株式会社は、化粧品業界における六位の大手業者であるとはいえ、化粧品全体では3.7%、皮膚用化粧品及び仕上用化粧品の分野でも6.5%の市場占拠率を有するに過ぎず、市場に対する支配力はさほど大きくないと考えられることなどに鑑みると、小売業者にカウンセリング販売という販売方法の実施をさせることは、一般指定一三項の「相手方とその取引の相手方との取引その他相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて、当該相手方と取引をすること。」には該当しないと解するのが相当である。そして、公正取引委員会のガイドラインが一般指定一三項に関して「メーカーが小売業者に対して、販売方法(販売価格、販売地域及び販売先に関するものを除く。)を制限することは、商品の安全性の確保、品質の保持、商標の信用の維持等、当該商品の適切な販売のための合理的な理由が認められ、かつ、他の取弓先小売業者に対しても同等の条件が課せられている場合には、それ自体は独禁法上問題となるものではない。」とし、その販売方法の制限の例示として「商品の説明を指示すること」を挙げているのは、基本的には同様の考えに立つものといってよい。
もっとも、独禁法が、事業者に対し、相手方の販売価格を指定し、これを維持させることその他相手方の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束することを禁止しているから(一般指定一二項)、メーカー等が販売方法に関する制限を手段として、小売業者の再販売価格の制限を行っていると認められる場合には、そのような販売方法は、独禁法上問題となり得る。花王化粧品が一般には値引販売されていないことは、前記三9のとおりであり、カウンセリング販売がこのような価格安定に一定の寄与をしていることは否定できないが、控訴人が再販売価格の制限を目的とし、カウンセリング販売という販売方法をその手段としていることを認めるに足りる具体的な証拠はないし、かえって、カウンセリング販売という販売方法が一応の合理性を有することに鑑みれば、右の価格安定に寄与しているという事情が存するからといって、直ちにカウンセリング販売という販売方法を手段として小売業者の再販売価格の制限を行っているものとすることはできない。なお、被控訴人が、本件解約は再販売価格を拘束するためのものであるとして、控訴人を公正取引委員会に申告したが、これを受けた同委員会が調査の結果控訴人に違反事実なしとして何らの措置もとらなかったことは(前記二8)、右判断に沿うものといってよい。
したがって、本件特約店契約におけるカウンセリング販売という販売方法をとるべき約定は、独禁法に違反するものということはできない。
また、本件特約店契約における卸売販売禁止の約定についても、それが独禁法に反しないカウンセリング販売という販売方法の実効性を担保する以上のものではないことに鑑みると(なお、控訴人は、卸売販売の禁止が短い流通システムをとることによるマーケティング政策上の利点の確保に役立つ旨主張し、その主張それ自体は首肯し得るが、右の点は抽象的には全ての商品についていえるものであり、控訴人の主張自体も、卸売販売の禁止を理由付けるというよりは、右の禁止の効果をいうもののようであり、しかも、化粧品ないし花王化粧品につき特に右の利点の確保の具体的な必要性を主張しているわけではないから、右の主張は、本件では取り上げない。)、独禁法に違反しないというほかはない。
そうすると、本件特約店契約におけるカウンセリング販売、卸売販売禁止という販売方法を実施すべき約定に違反したことを理由とする本件解約もまた、独禁法に違反するものではないといえるから、本件解約が公序良俗に反して無効であるといえないことは明らかである。
(なお、念のため付言するに、右判断において、花王化粧品につき、控訴人の販売理念、販売政策に基づく販売方法が一応の合理性があるものとしたが、これが推奨できるものであるか否かの点についてはいささかも判断をしてはいない。右販売方法が、共存する種々のいずれも一応の合理性を有する販売方法の中の一つであるとすれば、選択は消費者に委ねて差し支えないと考えたからである。
しかし、右販売方法がその性格上、仮に他の販売方法よりも強い価格安定の効果を有し、その効果が全くの付随的なものとはいえないとすると、化粧品市場における販売方法が、消費者の選択を経る前にメーカー等の選択により、右販売方法に集約され、消費者の選択の範囲が狭められてしまう可能性があり得ないではない。一般にメーカー等は価格安定を期待する傾向にあるからである。化粧品市場において、高級かつ高価な化粧品については、大手メーカーがこぞって、制度品としてカウンセリング販売という販売方法を採用し、一般品は安価なものに偏るという事態が生じた場合、他の諸般の事情にも関わるが、市場における有力なメーカー等が右販売方法を採用するについては、本判決の判示した一応の合理性では足りず、それが価格安定の効果を凌駕する客観的かつ相当な合理性を説明できなければ、独禁法上問題となる余地があろう。)
4 以上のような諸事情、殊に、本件解約の意図ないし動機が被控訴人に卸売販売の疑いがあったのに、それを解消しないどころか増幅したことにあって、被控訴人主張のような被控訴人の値引販売を阻止するためのものとは認められないこと、本件特約店契約は花王化粧品の再販売価格を維持するためのものとは認められないこと、被控訴人が、本件特約店契約に違反して富士喜に対する卸売販売を行っており、その違反事実の継続性、大量性に加え、控訴人からの度重なる質問に対しても具体的販売方法を明らかにせず、しかも、本件特約店契約におけるカウンセリング販売及び卸売販売禁止の約定の効力を争っていて、控訴人との信頼関係は既に破壊されているといえることを考え合わせると、控訴人のした本件解約が不当な目的をもってされたとか、その前提事実を欠くといったものではないことは明らかであるから、被控訴人が購入代金の支払を遅滞したことがなく、被控訴人が控訴人以外から花王化粧品を仕入れることは困難であり、本件解約は被控訴人に大きな損害を与えることが推察されることなどを含む、被控訴人が第二の三2(一)(4)で主張する諸事情を考慮しても、なお、本件解約が信義則に反し、又は、権利の濫用に当たるということはできないし、他にそのような事情を認めるに足りる証拠はない。
四 したがって、控訴人のした本件解約は有効であり、本件特約店契約は、右解約の意思表示が被控訴人に到達した平成四年六月三日の翌日から起算して三〇日目の同年七月三日の経過により終了したものというべきであるから、右契約の存続を前提として、被控訴人が控訴人からその注文に係る花王化粧品につき右注文後二日以内にこの引渡しを受けるべき地位にあることの確認、及び、被控訴人の注文に係る本件化粧品の引渡しを求める本訴請求はいずれも理由がなく(本件化粧品の引渡請求は、本件解約の効力が発生する前の同年六月三日から同月二五日までの間の注文に係る花王化粧品の引渡しを求めるものであるが、継続的供給契約であっても、特段の合意があると認められない本件においては、売買契約の成立には、個々の発注に対し個別の承諾が必要であるところ、本件化粧品の発注につき承諾があったことにつき主張も立証もない。しかも、本件解約に至る経緯に鑑みれば、控訴人が本件化粧品の発注につき承諾しなかったとしても、そのことに不当なところはない。)、被控訴人が本件特約店契約上の地位を有しないことの確認を求める控訴人の当審における反訴請求は理由がある。
第四 結論
よって、原判決中、被控訴人の請求を認容した部分(控訴人の敗訴部分)は失当であるから、これを取り消したうえ右部分の請求を棄却し、控訴人の当審における反訴請求を認容することとする。
(裁判長裁判官鈴木康之 裁判官丸山昌一 裁判官小磯武男)
別紙花王ソフィーナ・ビューティプラザ契約書<省略>
別紙花王ソフィーナ化粧品目録<省略>
別紙覚書<省略>
別紙取引高推移表<省略>